きのうのおにーきに引き続き、「スケーターズワルツ」のお話なのです.
イントロの苦戦を終えて、ワルツに入ったのですが、予想に反して音が出てきません...
イントロさえ克服すれば単純でわかりやすい楽譜だ、と思ってたのに難しいみたいです.
がっかりなのです.
初見演奏が苦手なだけなら良いのですが、ほんまに難しくて出来ないんやったらイヤんなのよ.
難しいのが、調の設定かしらん?と焦りました.
そんなこんなで、調性についていろいろ考えて設定したよ、というお話なのです.
_ この曲の原調は A なのです.
A管のクラリネットならシャープ・フラットなしです.
はかせはオリジナルキーをいじるのんはあんまり好きじゃないのよ.
A のままでやりたいのです.
でもでも、A のままでやると、B♭管の人たちはシャープ5つ、E♭管の人たちはシャープ6つなのよ.
これは吹けないだろ.
ここは、オリジナルキーを維持して自己満足するよりも、みんなが吹ける方を選ぶのだ.
で、移調なのです.
オケ譜を吹奏楽にアレンジするのんの定番は、1全音下げて♭ふたつ増やす (♯ふたつ減らす) です.
これを適用すると A→G にする事になります.
で、B♭管はシャープ3個、E♭管はシャープ4個になるの.
でも、はかせはこの曲をト長調にするのは最初から考えてなかったのよ.
シャープ4個もちょっと辛いしね.
半音下げてA♭にするか、半音上げてB♭にするか、の二つしかアタマにありませんでした.
半音上げてB♭にすると、フラット5個増えます(シャープ5個減る).
そうすると、B♭管はシャープフラットなし!!、E♭管はシャープ1個です.
でもでも、はかせの個人的な好みなんですが、なんかこの曲を B♭ で演奏するのがしっくり来ない気がしたの.
それに、楽器の音域の問題も出てきました.
オケ譜を吹奏楽にアレンジするのんの定番が「全音下げ」なのも、音域を考慮してるのかも知れません.
で、A♭にしたのです.
半音下げてA♭にすると、フラット7個増えます(シャープ5個減る).
そうすると、B♭管はフラット2個、E♭管はフラット1個です.
これならみんな大丈夫だろう、と判断しました.
_ 繰り返しますが、なんかこの曲を B♭ で演奏するのがしっくり来ない気がしました.
調性って不思議です.
単なる音階の位置の筈なのに、それぞれの調性に個性があるように聞こえます.
楽器の性質上、シャープ系は華やかに、フラット系は柔らかに聞こえる、と中学の音楽の先生に教わりました.
なるほどそのように聞こえる気がします.
とは言え、C♯ はシャープ7個で華やかな筈ですが、エンハーモニックである D♭ と捉えるフラット5個で柔らかい事になり、あれれ? となるのよ.
シャープ・フラットが5つ以上になる C♯・D♭、F♯・G♭、B・C♭ では、どっちともとれなくなってしまいます.
ほんとに「シャープ系は華やか」「フラット系は柔らか」なの?
それぞれの調性に意味があるよ、とヨーロッパの音楽では言われます.
ベートーヴェンで言うと
「英雄が E♭ なのは E♭ が英雄を表す調だからだ」
「運命の4楽章が C なのは、C が勝利を表す調だからだ」
「田園が F で始まり F で終わるのは、F が田園を表す調だからだ」
と聴いた事があります.
残念ながら出典は知りません...
こういうのんを、バロック時代のフランスの作曲家シャルパンティエなんかが、体系的に記しています.
wikipedia で変ホ長調の項を見るとつぎのように記されています.
「調号が3箇所であることから、古くから三位一体につながるとされた。
シャルパンティエは「残酷さや厳しさを表す」と述べ、マッテゾンは「非常に悲愴な感じを具えている。真面目で、しかも訴えかけるような性質を持つ」と述べている。
ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」の完成以後、「英雄の調」と定着した。
http://ja.wikipedia.org/wiki/変ホ長調#特徴
こんなんがヨーロッパ音楽の共通の認識になっています.
もちろん、先天的に人間が調性の社会的な特徴を感じ取ってこのように認識してるわけではなく、「E♭はかねてから英雄の調とされていたので、ベートーヴェンが英雄をE♭で書き、それによりE♭が英雄の調であることが強く示された」なんて感じで、歴史の積み重ねでこうなってきたのでしょう.
いわば「共同幻想」のような形で調性の認識があるのだと思います.
(カラオケの人はこんな事をあまり感じないようで、平気でキーを下げたり上げたりします.
この共同幻想を共有しないコミュニティでは移調するのんは当たり前の事なのよ.)
_ また、楽器の機械的な性質で、調性ごとに演奏の難易度や響きが変わります.
wikipedia の変ホ長調の項は次のように続きます.
ニ長調やハ長調に比べて作曲例が断然少ないのはヴァイオリンにおいては開放弦が少なく華やかさに欠けやすく、変ロ管のクラリネットを除いた木管楽器ではクロスフィンガリングを多用したので、音がくすみやすいためであった。18世紀中期から19世紀初期にかけて、トランペットとティンパニが使える調ということから若干ながら祝典向けの曲が書かれた。
古典派時代、ホルン協奏曲で頻繁に用いられた調性である。ニより低い調の管では、完全にストップした際のピッチの上昇は半音より小さいので容易に半音階を演奏出来るが、楽器の反応が鈍くなり、ソロ奏者には好まれなかった。ト管より上ではストップの際のピッチの上昇が大きく、ソロの演奏には向かない(実際には五線のすぐ上の記音イがフル・ストップで正しく演奏できるのはホ管より下の調であり、それがホルンの協奏曲にはホ、変ホ、ニの三つの調性のものが多い理由であるが、ハ管のための協奏曲も数曲存在する)。
アルト・サクソフォンやバリトン・サクソフォンといったE♭管の楽器ばかりでなく、変ロ調(B♭管)の管楽器にとっても演奏しやすい調である(管楽器はフラットの方がシャープより吹きやすいとされる)ため、吹奏楽などでは変ロ長調と並んで頻繁に用いられている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/変ホ長調#特徴
このように調性は社会的歴史的な必然性と楽器の機械的性質を考えて作曲家が選んだものだと思います.
そんなんなので、楽器の機械的性質のためだけに安易に1全音下げて吹奏楽版を作るのんは、はかせにとってはちょっと怖い事なのです.
_ 話をスケーターズワルツに戻します.
はかせはこの曲を B♭ で演奏するのが気持ち悪かったのです.
なぜなのかしらん?
よく考えると、B♭ は初心者向けの吹奏楽曲で多様される調なので、安っぽく聞こえる事をはかせは恐れていたの鴨知れません.
これは、はかせにとっての社会的な調性の感覚であって、多数の人にとっての共通の感覚ではない鴨知れませんね.
また、絶対音感を持ってない人にとっては全然とらえ方が違うの鴨知れません.
改めて、調性って不思議です.
御苦労をおかけしました。個人的には原調でやりたかったです。メンバーからすればB♭が良かったかもしれませんね。<br>エロイカのE♭、運命のC、田園のFの話は私も聞いたことがあります。これと関係ないかもしれませんが、昔のトヨタ車のネーミングも運命のC同様、Cから始まるように付けていたとかっていう話も聞いたことがあります。
各調に色が、というのを題名の無い音楽会で見たよ。